NPO法人 天覧山・多峯主山の自然を守る会 会報No.52 2008.6.1
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「もくじ」
●歌人・中西悟堂と飯能の山川/駿河台大学名誉教授 内田康夫
●早春の谷津田観察記録/会員 山梨光明
●天覧山・多峯主山、環境省モニタリングサイト1000に内定!/会員 大石 章
●やませみ52号 編集後記
●やませみ掲示板
●歌人・中西悟堂と飯能の山川 駿河台大学名誉教授 内田康夫
中西悟堂という名を目にして、皆さんはどんなことを思い浮かべるでしょうか。
野鳥の父、日本野鳥の会の創立者、自然保護運動の先駆者――確かにその通りです。しかし、中西悟堂の功績はもっと広くもっと深いものがあります。
悟堂という名前は文人の号や筆名ではなく、法名です。つまり、本職のお坊さんです。明治44年、調布の天台宗深大寺において15歳で得度し、幼名の富嗣から悟堂となり、以後、京都清水寺の末寺・長楽寺、松江市の名刹普門院などの住職を経て、本山比叡山延暦寺の宗務庁に勤務、天台宗権僧正から最後は僧正の位に就いた人です。
もう一つの顕著な側面が、歌人・詩人としての悟堂です。得度した翌年には、抒情詩社の同人となり、短歌・随筆・短編小説を次々と発表、斎藤茂吉、若山牧水、高村光太郎らと親交を結び、20歳で第一歌集「唱名」を出版して歌人としての地歩を固めました。比叡山勤務のかたわら、第三歌集「武蔵野」を世に出した後、千歳烏山で草根木食の修行隠遁生活に入り、野鳥・蛇・昆虫などの生態研究に没頭、さらに米国の詩人ホイットマンや、ソローの「森の生活」の翻訳に励みます。その一方でインドの詩聖・劇作家のタゴールと親しく会見し、インドに誘われたりします。インド行きはインド独立戦争の余波を受けて実現しませんでした。
そして、昭和9年(1934年)、日本野鳥の会を創立。この時の協賛者には当時の学界、文壇、画壇、ジャーナリズムなどの頂点を極めた人々が綺羅星の如く名を連ねています。機関誌「野鳥」は、現在で83巻860号に達しています。
戦後は、周知のような野鳥の会活動の中で、霞網・空気銃の撲滅、鳥獣法の改正、国際条約への参加など日本自然保護運動の根幹を作りつつ、昭和26年には宮中歌会始の詠進歌に選ばれ、同48年には歌会始の召人(歌の模範者として天皇に特に招かれた人)となります。こうして、昭和59年(1984年)、転移性肝臓癌により89年にわたる多彩な生涯を閉じたのです。
さて、昨春、悟堂遺品の中から「檜山路」と題する未完の歌集が発見されました。これは、昭和20〜22年の歌作三千余首の中より、歌人・窪田空穂が選抜した七百八十余首を編んだものです。この中に、飯能の山や川を詠み込んだものが多数見つかりました。詳しい経緯は後日に譲るとして、地名・地物の入った作を以下に掲げます。
加治の丘たもとほり来て 春蘭の あまねき径をいとしみにけり
梢のみは西日差しそふ 常盤木の 下陰さむき羅漢の座いくつ
多峯主の常盤木山は黒くして 夕光さむき径を行かしむ
*中西悟堂の歌集「檜山路」は今秋、春秋社から出版予定です。(やませみ編集部)
●早春の谷津田観察記録 会員・山梨光明
1月から4月にかけて天覧山の谷津田の観察を行った。この季節の観察対象は何と言ってもアカガエル、ヒキガエル、サンショウウオ等の両生類の産卵になるだろう。産卵の確認日、数、状態、孵化について1月10日から観察を開始した。
・ヤマアカガエル
1月16日、2個の卵塊を確認。以降2月8日に1個、14日8個、15日5個、24日に1個とばらばらと産卵。そして機が熟したのか29日に70個の一斉産卵を確認、3月11日に1個、13日3個で終了。何と2ケ月もかけている。卵は1つ1つが不規則にくっついて塊となり。どの卵塊も上部が水面から出る位の浅い場所を選んでいる。産まれたばかりの卵塊では透明な寒天質に包まれた黒い小さな卵が透けて見え、陽を浴びて光っている。
1月16日確認の一番早い卵塊は、何回もの氷漬けを繰り返し、34日かけて数匹が孵化、それ以外は22日、14日、12日と水温の上昇に合わせるかのように短くなっている。孵化の瞬間、幼生は思いっきり体を動かし寒天質の包みから次々と飛び出してくる。
・アズマヒキガエル
3月30日、池の底で無数の帯状の卵塊を確認。1つの帯が数メートルにもなるこの卵塊は弱くて引くとすぐ切れてしまい数えられない。卵は帯状の寒天質の中に整然と2列に並んでいる。以降追加された気配はなく、このカエルは短期間に一斉産卵するのだろう。孵化までの日数も発見から6日と非常に短い。この孵化が神秘的である。帯状の皮に穴があき、黒くダルマ胚まで成長した幼生は、この穴から寒天質をつけたまま浮き出てくる。非常に小さく未成長で孵化し、底に沈んで体力が付くまで全く動かない、死んでいるかのようである。その後6日かかってようやく動ける状態になった。
・トウキョウサンショウウオ
3月23日に15対、30日に4対の卵塊を確認、この卵は三日月型の2個の卵嚢が1対となり卵が数十個入っている。幼生はこの中で泳げる程に成長し、弾力のある卵嚢の皮は突き破ることが出来ないので片隅から次々と泳ぎ出し、水中呼吸用のエラを体外に付け俊敏に泳ぎ去る。
・今年の産卵数
アカガエル107個 ヒキガエル約12帯 サンショウウオ19対
今回の観察でヤマアカガエル、アズマヒキガエル、トウキョウサンショウウオの産卵を多く確認することができた。今後の変化を楽しみに、これからも観察を続けるつもりだ。
●天覧山・多峯主山、環境省モニタリングサイト1000に内定! 会員 大石 章
モニタリングサイト1000とは、動植物の状況等を100年間継続調査するサイトを全国に千か所設置し、自然環境の長期的変化を把握しようという環境省の壮大なプロジェクトです。
原生林、里地里山、河川、湖沼、海岸など、それぞれの生態系のタイプごとに調査サイトを設置していますが、4月末、天覧山・多峯主山地域が、全国約200の里地里山サイトの1つに内定しました。ある意味、日本の里地里山の代表になったわけです。
天覧山谷津では、はんのう市民環境会議が里山復元プロジェクトを進めています。てんたの会では、以前実施した自然環境調査の継続と合わせ、このプロジェクトの効果検証の観点からも、モニタリングサイト1000に応募していました。調査項目は、植物相、カヤネズミ、カエル類、チョウ類、ホタル類の5項目で、各項目について年間2〜10数日、当面5年間調査することになります。
今後、関係書類の提出を経て、正式に登録されます。専門家でなくても可能な比較的簡単な調査です。興味のある方、是非参加して下さい。あと百年長生きしましょう。
ツマキチョウ♂(4/27)
●やませみ52号 編集後記
てんたの会が保全を訴え続けてきた天覧山谷津の再生活動が始まりました。ここは住宅団地に開発される予定でしたが、05年開発中止決定から3年目にして大きなニュースが飛び込んできました。この土地の所有者である西武鉄道が、天覧山周辺の自社の森に対して「社会・環境貢献緑地評価システム(SEGES)」の認定を取得し、市民との協働のもと、本気で環境保全に取り組むことになりました。環境に貢献する企業としての今後に期待したいと思います。
●やませみ掲示板
○ 6月21日(土)午後1時〜 飯能市福祉センター
分野の違う市民活動団体が支援し合える関係を築こうと「市民活動ネットワークを進める会」が発足しました。この日は、当会代表の浅野正敏の発言の後、座談会を行います。
○ 6月29日(日)午後1時〜 富士見公民館
はんのう市民環境会議主催で講演会を開催します。講演者は世界七大陸最高峰登頂者の大山光一氏で、演題は「私の自然感・・・」です。
○ 10月17日〜19日
第16回全国雑木林会議が飯能市で開催されます。現在、地元の特徴ある大会にしたいと実行委員会が立ち上がり準備を進めています。
以上、ふるってご参加ください。