やませみ45号
発行日2006.1.1
目次
T あけましておめでとうございます ・・・ 代表 浅野正敏
U 2005年活動報告
V  冬の昆虫ウォッチング・・・文:大石 章、挿絵:黒住浩次
W  日よう日ふる里散歩感想文・・・長谷川知哲
X 編集後記・・・会員 早瀬あかね 

T.年頭挨拶

 明けましておめでとうございます。こうして年頭の祝詞を心からお伝えし共に喜べるのは、当会発足以来、初めてのことです。
 それは、昨年の1月に天覧山・多峯主山一帯に開発する予定であった「武蔵丘分譲地計画」を事業者である西武鉄道が撤回したため、当地の保全が図られる見込みが大となったからです。
 しかしながら、喜びと同時に開発ストップ以後、本当の保全活動が始まることを自覚しなくてはなりません。昨年、守る会では、今後の保全の方法について話合いを行い、これまで人の手によって保たれてきた里山としての環境を復元・保全するには、今後も人が関わり続けていく必要があると確認しました。
 今日では、かつてのように農業の営みと一体化した里山環境の復元は困難です。守る会としてこれからできることは、市民参加による環境保全作業への取組みとなるでしょう。それをより確実な保全に繋げるために、現在、飯能市で進められているエコツーリズムを取り入れ、行政はもちろん土地所有者である西武鉄道をも巻き込んで、楽しく保全作業ができればと思っています。
 具体的に「天覧入りホタルの里」の水辺づくりの計画も始まっています。また天覧山裏の東やつにある「ほとけどじょうの里」のトラスト(買取り)の話も進んでいます。こうした事業を将来にわたり継続し進めてゆくために、NPO法人化も視野に入れなければなりません。
 11年目を迎えた本年は、守る会にとって〈変革の年〉になると言えます。

天覧山・多峯主山の自然を守る会 代表 浅野正敏

 

テキスト ボックス:  
U.2005年活動報告
1月25日
西武鉄道による武蔵丘分譲地開発の中止について、飯能市長に面会し、事実確認と守る会としての要望を伝える
  28日
やませみ号外発行(新聞折り込みにて全戸配布)
2月19日
奥むさし環境講座「地域の自然とエコツーリズム」◇飯能・名栗エコツーリズム「キックオフシンポジウム」に後援団体として協力(浅野代表がパネラーとして参加)
  19日〜25日
飯能市郷土館にて天多の四季・写真パネル展示
3月18日
西武鉄道との面談(西武ニュース取材協力の件、及び開発中止後の土地利用計画について)
  19日
第2回飯能市生涯学習フェスティバルにて活動紹介パネル展示参加
4月17日
総会及び市民案づくり
5月16日〜23日
丸広8階市民コーナーにて守る会パネル展示
5月12日・19日
飯能第一小学校の総合学習で、天覧山の自然学習の支援
6月18日
はんのう市民環境会議総会にて守る会パネル展示
7月16日
武蔵丘地域の都市計画変更について飯能市の説明会に参加
8月23日
武蔵丘地域都市計画変更の公聴会にて浅野代表公述
9月6日〜11日
市民案模型づくり、ギャラリー・ゼフィルスにて
9月23日
守る会全体集会(保全活動の今後について)
10月29日
駿大地域フォーラムにて守る会パネル展示
年間を通して
この他に、会報誌「やませみ」41号から44号発行、毎月1回の「ふるさと散歩」、毎月2回の定例会、毎月第4日曜日丸太小屋づくりと谷津田の手入れ作業、ホームページとメーリングリストの運用などを実施。
   
 

 


 

 

 

 

 

   

 

 

 

V.冬の昆虫ウォッチング ・・・文:大石 章、挿絵:黒住浩次

 冬に昆虫を見ようなんて変だと思いますか。探し方さえ分かれば案外簡単に見つけられますし、普段見られない昆虫の生態を見ることができます。また、草が枯れて林の中に入り易くなりますし、ヘビ、ハチやカがいませんから安心して、落ち着いて観察できますよ。

オオムラサキ:今年の夏、クヌギ林で樹液を吸うオオムラサキがあちこちで見られました。この蝶の生息には食樹の他にクヌギなどの樹液を分泌する広葉樹が必要なので、この蝶が見られることは里山が残されている証拠でもあります。食樹は高木になるエノキで、秋には甘い実を付け、鳥が食べて糞として種をまきますので、小さな木なら街中から山野まであちこちに見られます。成虫は、8月頃にエノキの葉や枝に百数十もの卵を産みやがて孵った幼虫は葉を食べながら大きくなり、11月の黄葉とともに樹を下り、根元で冬眠します。温かくなると冬眠から覚めてしまうため、日陰になる場所で、枯れ葉の裏側に張り付いています。背中に突起が4対あるのがオオムラサキで、3対の幼虫は、オオムラサキをモノクロで小型化したゴマダラチョウです。観察が終わったら、風に飛ばされない、日が当たらない所に戻してあげてくださいね。

 

アゲハチョウの仲間:ナミアゲハやクロアゲハはミカン科の木が食樹ですので、庭のユズなどによく卵を産みに来ます。幼虫は最初は鳥の糞そっくりで、大きくなると緑色になり、怒らせると臭い角を出すあの虫です。冬は蛹(さなぎ)で越しますが、蛹になるときは食樹から離れることも多く、時には10m以上も移動して家の塀や壁などで蛹になっていることがありますので、離れた場所も探してみましょう。蛹は緑色と茶色がありますが、場所によって色を変えますので、色と場所の関係を調べてみるのも面白いかもしれません。アゲハチョウの仲間に、ウマノスズクサというつる草を食草とするジャコウアゲハがいます。市内で食草を探していたら、線路の端にたくさん見つかり、幼虫もいました。ナミアゲハとは似ても似つかない白黒のとげだらけの変な形をした幼虫です。その後、線路の柵で無事蛹になりました。口の部分が紅を引いたように赤いため、皿を割って罰に縛られたお菊さんのようだということで、オキクムシとも呼ばれます。

ジャコウアゲハ蛹

ウスタビガ:落葉した雑木林の中を歩くと、コナラなどの枝先に鮮やかな緑色のウスタビガの繭がよく見つかります。ウスタビガはヤママユガの仲間の大型の蛾で、本当は夏から繭になっていたのですが、保護色で分からなかったわけです。11月頃には羽化してしまいますので、真冬に見つけたときはすでに抜け殻です。しかし、繭に卵が産み付けてあることがありますので、探してみましょう。昨年私が見つけたのは中身が入っていましたが、死んでいるのかと袋に入れておいたら、蛾ならぬ寄生蜂が59匹も出てきました。いかに大きいとはいえ、60匹近い蜂を養うことができるとは驚きです。

ベニシジミ:オレンジ色が鮮やかな小さな蝶です。スイバの仲間を食草とし、冬は幼虫で根元にもぐり込んでいますので、草をかき分けて探せば見つかりますよ。ほらね・・・、うわー、ナメクジばっかりだー!(実話)

W  日よう日ふる里散歩感想文 「人の眼」長谷川知哲

 凄い。とにかく凄い。感嘆とため息と、そうなんだっていう悟りと、めくるめく思いの二時間の里山歩きであった。ゼフィルスというギャラリーで、友人夫婦が作品展をするというので、熱海から飯能に出かけて来た。そのまま上直竹の山奥の古民家に泊めてもらい、翌日の朝、勧められるままに「天覧山・多峯主山ふる里散歩」に参加したのである。能仁寺横から山へ入りながら、ムササビが飛びついて着木した時のささくれや、エノキの落ち葉に付いたまま越冬しようとしているオオムラサキのさなぎを、事も無げに見つけては、立ち止まって20数名の参加者に専門のガイドが説明を始める。ガイドは生態系保護協会の研究員である。私は欧州のガイドを思い出した。欧州では、ガイドとは厳しい試験をパスした本物の専門家である。

 僕らのガイドの市川さんは、湿地帯を通る時、ちょっと横を見たと思ったら、すっと道からそれて、ひょろ長い草の先端を捕まえて、匂いを嗅いでいる。「あっこれですね。ちょっと匂いを嗅いでみてください。カレーの匂いがしますから。」興味しんしんに、代わる代わるそこへ行って匂いを嗅ぐ。なんと、カレーそのものだ。「これは、ノダケです。ノダケでも、匂うものと匂わないものがありますが。」うーん、これは凄い。

 20メートル歩くたびに、市川さんの新たな説明が始まる。里山の自然の奥深さに、唖然として感嘆し続けた2時間であった。散策の後は、河原で「天覧山・多峯主山の自然を守る会」のメンバー心尽くしの、むかごご飯と豚汁に皆舌鼓を打ったのであった。多くの人にこの奇跡の散歩を体験して欲しいものだ。素晴らしい自然。そしてそれを見守る人の眼が温かい。

    ささくれし檜の幹を指しながら ここにムササビの飛び来たれりと

X.編集後記 

 突然の寒波、昨日までの好天とはうって変わった寒さに、外では風花が舞っている。大急ぎで薪ストーブ用の薪を一輪車に乗せて運んでいた夫の声が外でした。「ちょっと来てみて!」「いったいどうしたの?」と私は首をすくめて外に出た。夫の指差す先を見つめると、南側の戸袋の前に積んでいた薪の山が取り払われた後、戸袋のあちらにもこちらにも、テントウムシが数匹づつ、多いところは10匹ほどで身体を寄せ合っていた。寒さと共にいつのまにか姿が見えなくなっていた彼らは、こんなところで冬を迎えていたんだね…。「寒そうだよ」「大丈夫、すぐ次の薪を積んであげるから」と夫が薪を取りに行って帰ってみると、あんなにもたくさんいた彼らの姿はどこかに消えていた。テントウムシ達よ、せっかく気持ちよく眠っていたのに、起こしてしまってごめんね。

(守る会会員 早瀬あかね)