やませみ41号 2005年1月1日発行

 目次
T 新年号特別企画 (守る会は今年で10年、活動のこれまでこれからをお伝えします)
 @「守る会のはじまり」
 A「これまでの活動」
 B「県民休養地構想とその後」
 C「里山としての天覧山・多峯主山」
 D「東やつ“ホトケドジョウの里”から」
 E「日よう日ふる里散歩の活動」
U 第9回奥むさし環境講座のおしらせ
V 天覧山・多峯主山を守る会のこの1年
W 編集後記

 

バルーンを使っての天覧山・多峯主山の空撮(画像をクリックすると拡大します)

 

T 新年号特別企画
守る会のはじまり 」
  1995年、突如天覧山・多峯主山周辺に72.9haの住宅団地(武蔵丘分譲地)開発の事業申請が西武鉄道より提出されました。
  それを知り、この大切な自然環境の破壊を危ぐした人たちが開発変更を求める署名活動を始め、そこから「天覧山・多峯主山の自然を守る会」の活動が始まりました。
  当会は、24,000名を超える署名簿を携えて行政や事業者との交渉に何度も足を運びましたが、開発変更が認められなかったことから、市民サイドからの直接請求として「環境保全条例制定案」を飯能市(当時、小山誠三市長)に提出することにしました。郷土の歴史と多くの文化を留める緑豊かな天覧山・多峯主山一帯への市民の関心は高く、街頭や戸別訪問で集めた署名は、提出に必要な法定署名数1,206人(有権者数の1/50)を大きく上回り、15,601人もの署名が集まりました。
  しかし、残念ながら、市議会では反対意見はなしのまま、賛成少数という理由で否決されてしまいました。
  ところが、翌年4月、開発事業認可寸前に事件が起こりました。当会会員が開発予定地内に絶滅危ぐ種のオオタカの営巣を発見し、その1週間後にその巣が何者かによって壊されるという事態が発生したのです。このことが全国的なニュースとなり、当時の環境庁も動きだし、オオタカをめぐる環境アセスメントの再調査の必要性から、以降の開発着手は延期されたのでした。
  このことにより「天覧山・多峯主山の自然を守る会」は時間的余裕を与えられ、以来保全に向けて、地道かつ根気強い活動を展開していくことになります。

「これまでの活動
  「天覧山・多峯主山の自然を守る会」の発足以来、今年でまる10年が経過しました。
 この間、当会は会報「やませみ」を発行し、市民へ情報を提供し続けてきました。また、毎月1回、自然観察を中心とした「日よう日ふる里散歩」の実施や、休耕田での稲づくり作業といった地道な活動も続けてきています。更に、年1回開催してきた「奥むさし環境講座」では、地域から地球環境問題までを見据えた視点で学習し、足下の問題を、実践を通して解決して行くことに役立てたいと考えています。
 '00年からは、1年半にわたり専門家を交えた、市民による詳細な環境調査を行いました。そこで得られた貴重なデータは、『天覧山・多峯主山自然環境調査報告書』としてまとめられました。また、その成果を発表し展示する場として「天覧山・多峯主山自然博物館」を開催し、1000名近い入場者に見ていただくことができました。
 その他にも、天覧山で伐られた間伐材を活用して「木馬づくり」に参加するなど、商店街や林業家との交流を持ちながら、まちづくりの視点に立った活動にも協力しています。
 これまでは、市民対行政・事業者といった対立の構図となっていましたが、'02年市長交代に伴い改善が図られ、市民、行政そして事業者が一緒に考えていく場として'04年「はんのう市民環境会議」が発足しました。また、環境省から「エコツーリズム(自然環境や歴史文化を対象とし、それらを体験し学ぶとともに、対象となる地域の自然環境や歴史文化の保全に責任を持つ観光のありかた)」のモデル地区として全
国13ヶ所の内の一つに飯能市が選ばれたこともあり、着実に保全を進めて行く足がかりが築かれつつあると感じています。
 「天覧山・多峯主山の自然を守る会」では、こうした事業へ積極的に参画すると共に、緑の喪失の危機はなくなっているわけではないことを再認識し、緑のシンボル地である天覧山・多峯主山一帯の自然環境を、市民の誇りとして次代に引き継いでいけるよう、これまでの活動に加え、保全のための具体的な提案を作成するといった活動も進めていこうと考えています。  (文責 浅野正敏)
 

「県民休養地とその後」
  開発を最優先とする高度経済成長の時代に、埼玉県は西武鉄道に対し、天覧山・多峯主山を含む奥武蔵自然公園内で1000haもの開発を認可してしまいました。しかし、この開発計画を危ぐする声が市民の間で高まる中、こうした状況を打開する為に、埼玉県環境保護団体協議会と、埼玉県・飯能市・西武鉄道・(財)埼玉県生態系保護協会と当会の6者による会談が開催されました。そして会談を重ねた結果、開発地に隣接する「飯能県民休養地構想」を具体化する提案が出され、'98年には、「飯能県民休養地自然環境調査報告書」が、'99年には、「同基本構想調査報告書(中間)」が埼玉県によってまとめられたのです。しかし、残念ながらその後「県民休養地構想」は休眠したままで、現在に至るまで進展はみられていません。(浅野正敏)

「東やつ“ホトケドジョウの里”から」
 諏訪沢入りの「東やつ」は、この周辺で唯一今も耕作されているやつ田のあるところであり、縄文の遺跡もあるといわれている所です。
 ここでやつ田保全の試みを始めて五年目になりました。一年目はため池を作り蓮を植えました。蓮は定着しませんでしたが、このため池で沢山のアカガエル、トンボ、ホタル、メダカ、ホトケドジョウ等が育ちはじめました。
 二年目より田んぼを作り始めました。子ども達も参加し、田植え、稲刈りなどを楽しく続けることができました。ただ、四年目の今年は、初めてイノシシが田に入り、稲の収穫はできませんでした。間伐材を使っての作業小屋づくりも今年始めました。来年には草屋根の作業小屋が完成するでしょう。  いろいろな谷津の保全の試みを続けてきましたが、田んぼを含めて、ため池を復元することが、里山の生き物の再生に大きな役割を果たしていることを体験的に知ることができました。これからも楽しく多くの人と共に、自然な汗を流していきたいと思っています。 (早瀬成憲)

「日よう日ふる里散歩の活動」
この山の魅力を多くの方々に知っていただこうと、毎月1回続けてきた観察会です。毎回1つのテーマを決め、四季折々の里山の姿を様々な視点から見つめてきました。山の動植物についての観察はもちろんのこと、この山の持つ歴史的背景を探ったり、農業や林業との結びつきを考えたり、参加者みんなで俳句の会を催したりと実にバラエティに富んだ観察会です。
 この10年間を振り返ると、参加者とこの山の魅力を分かち合えたと同時に、新しい人と人とのつながりを与えてくれました。そして何より企画、主催する私たちに毎回新たな山の姿を見せてくれることで、活動を続ける原動力を与えてくれたのだと感じています。     (黒住)

「里山としての天覧山・多峯主山」
 私たちは調査期間中、ハイキングコースを外れ、普段は立ち入ることのない谷津田の最奥部や、藪の中に足を踏み入れた。そこには、里山の形跡が残されていた。緩やかな棚田の畦道、石が積まれた用水路、薪炭林利用されていた雑木林、段々畑の名残、秣場の跡地、木馬道の跡・・・。確かにここは、生活の糧を得る場であったのだと実感した。
 貴重な動植物や多様な自然がなぜ今ここに存在するのか、また、今後のこの山の保全と活用方法について考えていく時、このような里山としての土地利用の歴史についても忘れてはいけない。
 日常の生活と自然との距離がどんどん遠くなっている今、里山から学ぶことはまだ数多く残されている。また、里山を活用して生きる知恵は、地域のお年寄りの方から継承すべきだろう。
 私たちは、調査活動を通してこのような視点も得ることが出来た。
また、作成された展示物はその後、県内出張展示という形で各地の博物館等を巡った。そ して2004年12月、飯能市郷土館に、現存植生図を基に緻密に作られた大型の立体模型 や写真パネルなどの寄贈が決定。調査報告書とともに、制作された多くの展示物が市民の共有財産として活用してもらえることになった。( 調査委員会事務局 遠藤夏緒)

U 第9回奥むさし環境講座
テーマ「地域の自然とエコツーリズムー天覧山・多峯主山保全に向けて」
環境省エコツーリズムモデル事業として、全国13か所のうちのひとつに飯能名栗地域が選出された。地域の自然環境や歴史・文化を、観光という視点で経済に活かしながら、持続させてゆこうとする試みである。実施の詳細は事務局へお問い合わせ下さい。

V 天覧山・多峯主山を守る会のこの1年
 2004年
 1月 1日  ◇ふるさと散歩「平和を願って初日の出」の巻
      1日  ◇やませみ38号発行
    25日  ◇奥むさし環境講座「日本人の食生活と里山の未来」
 2月 8日  ◇ふるさと散歩「里山・日だまり・冬の鳥」の巻
 3月14日 ◇ふるさと散歩「東やつ田で田おこし作業」の巻 (社)日本ナショナル・トラスト協会との共催
    24日  ◇保全のための市民案作成検討委員会
 4月 4日  ◇総会、および保全のための市民案作成座談会
    11日  ◇ふるさと散歩「さくら、さくら、やまざくら」の巻
    30日  ◇カトリック修道場視察研修会にて天多を案内
 5月 1日  ◇やませみ39号発行
      9日  ◇丸太小屋づくりのための間伐材搬出とやつ田の手入れ作業
   13日、27日◇飯能第一小学校4年の総合学習にて天多の自然について講師ボラン ティア。
    30日  ◇ふるさと散歩「東やつ田でどろんこ田植え」の巻、および間伐材の皮むき 作業
 6月19日 ◇間伐材による丸太小屋づくりと谷津田の手入れ作業
    20日  ◇はんのう市民環境会議総会後の分科会にて、当会の調査活動を主体とした 発表を行った。
    27日  ◇ふるさと散歩「ゲンジとヘイケを見分けよう」の巻
 7月10日 ◇間伐材による丸太小屋づくりとやつ田の手入れ作業
   25日  ◇ふるさと散歩「俳句でハイク」の巻
  31日〜9月21日◇羽生市立図書館・郷土資料館において天覧山・多峯主山自然博 物館出張展示(羽生市教育委員会・県立自然史博物館主催の『里山の自然』特別展に て)
 8月 8日  ◇ふるさと散歩「水辺の生き物発見!」の巻※
 9月 1日  ◇やませみ40号発行
    11日  ◇間伐材による丸太小屋づくり作業
    26日  ◇ふるさと散歩「秋の里山は花ざかり」の巻
10月 3日 ◇間伐材による丸太小屋づくり作業
    9日  ◇間伐材による丸太小屋づくりとやつ田の手入れ作業
    10日  ◇ふるさと散歩「天多・里山・秋の色」の巻※
    19日  ◇(財)せたがやトラスト協会より、当会の活動と観察会の視察。
    21日  ◇第1回飯能・名栗エコツーリズム推進協議会準備会が開催され、当会浅野 代表が委員に任命される。
11月 3日 ◇ふるさと散歩「やつ田で丸太小屋づくり」の巻、および追加間伐材の搬入 作業
   13日  ◇間伐材による丸太小屋づくり作業
   14日  ◇吾野宿コマ回し大会にて活動紹介パネル展示参加
   16日  ◇飯能市長・教育長に面会し、天覧山・多峯主山自然博物館展示資料の寄贈 を申し入れ、市として受け入れを決定
   19日〜26日◇吉田屋呉服店掲示ギャラリーにて活動紹介パネル展示
   27日  ◇市民ボランティアフォーラムにて活動紹介パネル展示参加
12月12日 ◇ふるさと散歩「里山のメリークリスマス」の巻

この他に毎月2回の定例会、毎月1回の「ふるさと散歩」(「はんのう市民環境会 議」との共催もあり)、会報誌「やませみ」38〜40号発行、やませみ編集会議などを
実施。

W 編集後記
  禁煙して早一年余が経過した。30年近く付き合ってきた煙草である。辛くないわけがなかったが縁が切れていたのだろう、すっぱりと止めることができた。
  感無量である。歯は汚れず、爪の色は紫色からピンク色へと変わってきた。顔色も良くなったようである。火の心配はしなくてすむし、小銭が何時までも財布に残っているのが嬉しい。ある禁煙ソフトで、禁煙時から今日までの私が吸わなかった煙草を計算するとその数は、779箱と3本。浮いた煙草代二一万三七〇円。延びた寿命54日2時間35分となるのだそうだ。まことに目出度い。この浮いたお金は健康のために使おうと思っているので、近々自転車でも買おうかと思っている。(ま)