やませみ35号(2003.3.26)

目次
1.埼玉県による『景観間伐』に対しての報告・・・守る会会員  丸山 隆
2.東やつホトケドジョウの里だより・・・守る会会員 早瀬成憲
3.リレーエッセイ自然と共に生きる『へびがおしえてくれたこと』・・・投稿/ 篠崎真実
4.天覧山・多峯主山の四季・・・自然観察指導員  太田和夫
5.編集後記・・・守る会会員  遠藤夏緒
 
 

1.埼玉県による『景観間伐』に対しての報告・・・動植物の被害を最小限に防ぐために提言を行いました。
T この間伐の目的は? 山の立場で考えたい
 天覧山・多峯主山周辺の山林で、埼玉県による緊急雇用対策として、景観間伐が実施されることになった。景観間伐とは耳慣れない言葉であるが、道際に生い茂る木々を間伐して、すっきりした景観にするためのものらしい。関係各所に、実施時期やその方法、範囲等に関し問い合わせた結果、伐採予定地域内には、希少動植物が生息している場所と重複している地域が多数あることが判明した。無節操な伐採によって、それらの動植物の生息環境が著しく破壊されはしまいかという危惧もあり、以下の提言を川越農林振興センターに要望した。 
 
@ 間伐に際しては、希少野生生物の保護に、細心の注意を払うこと。
A シイ、カシ、タブなどの将来地域の森林を構成する常緑高木樹林樹種やウツギ、ヤマツツジなどの花木類などは残しておくこと。
B 伐採した後の間伐材の林外への運び出しの実施など

である。景観間伐の実施前に当会では、常緑高木、花木類には、1本1本に蛍光テープを巻き付けるなどして、間伐の際に残しておくべき木々や範囲を指定した。また、当会と西川木楽会とが共同で、間伐の際に注意すべき点などに関する現地視察を含む勉強会を、間伐の伐採施工者に対して行った。
U そして間伐へ・・・幼樹は残されました。
 上記の準備を整えて、実際に昨年の12月から今年の1月末の間、景観間伐が実施されたが、当初の間伐予定範囲は、開発予定地域を除くなど、伐採範囲の大幅な変更がなされ、希少野生生物の生息地域に間伐はなされないことになった。また、テーピングを施した花木類や常緑高木類の幼樹などは、刈り残され、おおむね当会の要望が取り入れられた結果となった。
V 里山を育む手入れを
 ただし、問題点も少なくない。まず、今回行われた間伐は、緊急雇用対策による景観間伐ということもあり、ハイキング道の沿道を中心に行われ、さらに伐採率が25%程度という低いもので、本質的な里山保全のための環境整備には不十分なものであること。伐採後の間伐材が、伐採地に放置されたままになっている点である。
2月22日、当会と西川木楽会とで現地の視察を行った。今後引き続き、この地域の里山の保全に関する具体的な方策や間伐材の利用について話し合っていく予定である。

       守る会会員  丸山 隆


2.東やつホトケドジョウの里だより
 天覧山の東を流れる諏訪沢上流の東やつの春は、ヤマアカガエルの産卵で始まります。
 薄氷の張る沢や田んぼの水たまりに、ゼリー状の黒い固まりが、あふれる程に沈んでいるのを見つけては、いつも驚かされます。二月、三月と産卵はつづき、やがて黒く小さなオタマジャクシの群となる。そして、シュレーゲルアオガエルの泡状の卵が畦などに懸かり、ザリガニが土の中より出てくる。ホトケドジョウやいろいろなヤゴが温かくなった水底で動き回り、ミズスマシが水面を走り回る頃には、春も本番となるのです。
 この東やつの休耕田を地主さんのご好意でお借りして、ため池や田んぼ、広場などを作り始めて五年目になり、お米作りも三年目を迎えました。

〔稲作の作業計画〕
冬季…野焼き・田起こし等。
四月…自宅にて種籾の用意、発芽作業。
   パレットにて苗作り。
五月…パレットを田に運び、苗の育成。
   代掻き。田植え。
六月…田の草取り。畦の草刈り。
(以上、夏までの田んぼの作業予定。)

稲の品種はイセヒカリ。手作業、無農薬、無肥料で育てています。苗が大きくなる頃には、田んぼ一面にヤゴが這い回り、ドジョウが泳ぎ回る。里山の自然の中では、生き物が季節と共に湧き出るように発生し、消えてゆきます。特にこの谷津には、ホトケドジョウがたくさんいるのです。
  そして、梅雨の終わり頃の、夜の谷津にはホタルが現れて、里山の谷間で夢のような光と闇の世界を繰り広げてくれるのです。
  四季折々、朝な夕なに、この東やつをはじめ、天覧山・多峯主山の谷津、湿地に足をのばして、そこに現れる虫やヘビや鳥や動物たち、花や植物との交流を、多くの友人と今年も楽しんでゆきたいと思っています。

守る会会員 早瀬成憲


3.リレーエッセイ自然と共に生きる『へびがおしえてくれたこと』
 それは初夏の午後のこと。はげしい夕立の通り過ぎた後でした。 
 「おばちゃん、おばちゃん」同じマンションに住む子供たちが私を呼びに来ました。こんな時、子供たちの用事はだいたい決まっています。誰かケガをすれば隣の棟の元看護婦さんの所、生き物のことなら私の所、と、そんなふうになっていたからです。今日はなにかな、と思っていると、子供たちは私を引っ張るようにして「おばちゃん、ヘビがいるよ」と階下の駐車場を指すのです。降りてみると、アスファルトの上に、確かに大きなヘビがいます。「ジムグリ」と呼ぶヘビでしょう。 
 「おばちゃん、どうしよう? 」と子供たちはなんだか期待するような目で私を見ます。「どうにもしないよ」と私は答えました。大雨のせいで、そばの植え込みも水びたしで、側溝にはまだ雨水が流れ込んでいます。「さっきの雨で、おうちの中まで、ずぶぬれになっちゃったのかな、困って出てきたんだね」と言うと、子供たちは納得した様子でしゃがみこみ、ヘビを眺めはじめました。ヘビは、ななめに射した金の陽に輪郭を輝かせ、しごくのんびりと体を乾かし、やがて静かに植え込みに消えました。その時、ヘビを眺めながら、こんな話をしました。動物が他の種類の生き物を襲うのは食べるためか、自分や家族の身を守るためだけ、と。人間は、ただ「ヘビだから」なんていう理由でヘビを殺したりするけれど、ヘビが、飲み込めっこない人間をわけなく襲うことはないのだと。人間の子供と、ヘビがすごしたのどかな夕暮れ。何年たっても、私はその時のことを忘れられません。もしもあの時、多くの大人がするように、ヘビを見て悲鳴を上げたり追っ払ったりしていたら、あの穏やかな時間はなかったでしょう。そして子供たちは、ヘビは、悲鳴を上げて追い払うものだと思うようになったかも知れません。子供たちは、あの後引越して散り散りになってしまったけれど、あの時のことを忘れてしまったかもしれないけれど、それでも、考え方のどこかにきっと残っていると、私は思うのです。あのヘビは、子供に取り巻かれても逃げなかった。それは、敵意がないということを「分かりあえた」から。人間と野生の生き物。一度きりの出会い。それでも、あの午後、私たちは同じように、暖かい夕日を一緒に楽しんだのです。

                投稿/ 篠崎真実


4.天覧山・多峯主山の四季
【春】四季を通じて、森が最も華やかに見えるのは春と秋だ。春の華やかさは、眠りから覚めたようなくすんだ色合いに始まり、やがて瑞々(みずみず)しくはしゃいだ色合いに変化してゆく。一方秋の華やかさは、活力にあふれた夏を惜しむかのように、重厚な緑からやがて赤や黄色、そしてオレンジへと燃え尽きていく色合いだ。私は、秋の成熟しきった華やかさも嫌いではないが、一口に新緑といっても樹ごとに表情の違う春の雑木林が大好きだ。


 ネコヤナギ・・・この山で五種類あるヤナギの内の一つ。白い毛に覆われた楕円形の穂で、春の訪れを知らせる。本郷入りの中ほどで数本見られる。

 ヤブツバキ・・・春先に咲く深紅の花は、冬景色の落葉樹林でひときわ鮮やかである。天覧山の西斜面に多い。多峯主山にも沢山あったが、間伐で切られてしまった。


 ヤマザクラ・・・山の木々が一斉に芽吹く頃、淡いピンクの花を枝先いっぱいに着ける。ふだんは気づかれないが、花の散る頃に存在を主張する樹だ。

 春霞 畑の向こうに 銀コナラ



【夏】ふつう五月上旬の暖かい日を「初夏の陽気」と呼ぶが、植物にとっての春と夏の境はもう少し遅い。天覧山・多峯主山では三月下旬にはヤマザクラが咲きはじめる。この頃コナラやイヌシデなどの落葉樹の芽もほころび、枝が伸び始める。そして、日一日と山々は緑を濃くしていき、五月一〇日頃までにはほとんどの樹木が枝の伸長を一旦止め、安定した緑葉期に入る。植物にとっての春と夏の境は枝の伸長が止まった時で、枝が伸び続けている間は「春」。一旦枝の伸びが止まり、先端の葉が開ききると「夏」を迎えることになる。もっとも、ムクノキやエノキのように梅雨入り頃まで連続して枝を伸ばし、次々と葉を広げていく順次開葉型の樹木もあるし、コナラのように、一旦は枝の伸長を止め枝先に冬芽をつくるものの、梅雨明け前には一部の枝が再び伸び出す「土用伸び」という現象もあるので注意が必要だ。

 ヤマツツジ・・・四月から五月にかけて、尾根すじの雑木林で咲く。日当たりの善し悪しで開花時期が前後し、天覧山頂では三月中にも花開く。


 コナラ・・・梅雨の明ける頃にも新緑の時期がある。日の当たる場所の枝ほど早く伸びることになり、効率的に太陽の恵みを受ける。

 アラカシなど・・・常緑樹の芽吹きは落葉樹よりも遅い。常緑といっても葉が落ちないわけではなく、芽吹きから一ヶ月ほど経って古い葉が落ちる。

珪岩の 棚で思案の 羅漢像

 
【秋】秋は山から下りてくる。アキアカネが田んぼを群れ飛ぶ九月下旬、アルプスの稜線を覆っていた秋の気配は、三〇〇〇mの標高差を一月あまりで下り、十一月上旬には里山を訪れる。奥秩父の岩山にはかなわないものの、比較的落葉樹の多い天覧山・多峯主山周辺は、入間川・高麗川流域では紅葉の美しい山の一つにあげられるだろう。

 ムラサキシキブ・・・名前から想像するよりも丈夫で、ヒノキ林など暗い林でも育つ落葉低木。見返り坂の下あたりに多く、紫色の実が美しい。

 モミジ・・・紅葉の時期、能仁寺周辺や天覧山中段はイロハモミジで紅く染まる。山中には十種類ほどのカエデの仲間が生育するが、大木は少なく目立たない。

穂の先で 風向き知らす 赤とんぼ

 
【冬】山に静寂が訪れるのが冬だ。春や秋はハイカーの鈴の音や、遠足の児童の歓声で賑やかだし、夏はむせかえる緑に圧倒され、素肌をねらうヤブ蚊の羽音に気をとられる。この冬は例年になく雪の降る日が多かったが、青空をバックにした里山の雪景色ほど美しく、はかないものはない。

 アセビ・・・尾根すじの落葉樹林で見られる。開花は三月になるが、つぼみは冬の間中枝先で春を待ち続ける。伸び出した新芽は、赤みを帯びて美しい。

スギとヒノキ・・・冬は、遠くからスギとヒノキを見分ける適期だ。ヒノキが夏と同じ濃緑に対し、スギは赤茶に変色するからだ。

山道に 白い足跡 霜柱

自然観察指導員  太田和夫
5.編集後記
 去る一月二六日、埼玉NPOセンターが企画・実施する「埼玉NPOフォーラム二〇〇三」というイベントが浦和でありました。「NPOと行政の協働による市民参加のまちづくり」をテーマにした全体会や「NPO基礎講座」などの分科会があり、三〇〇人以上の参加者があったそうです。
  この会場には、県内各地で活躍する様々な団体の活動紹介コーナーもあり、守る会も展示物を作成して参加してきました。また、各団体が発行する広報誌を対象としたコンクールにも参加。これは、展示された広報誌に対して一番多くの票を集めたものが優勝、というものでしたが、この「やませみ」が見事優勝したのでした!
  後日、埼玉NPOセンターへ所用があり、電話を入れたときのこと「あ、『やませみ』の会の方ですね。」といわれたのです。きっとこの「やませみ」が、守る会の〈 顔 〉としてこれからも広く活躍していくのですね。
      守る会会員  遠藤夏緒