1.ひろがりと繋がりを深めて(年頭挨拶)
2002年を迎え、飯能の歴史と文化、豊かな生態系を有する天覧山・多峯主山一帯の自然は存在しています。
1995年、当地の開発が発表された時、住都公団による大河原分譲地計画地では、木々は伐採され山肌があらわになっていました。その後、山々は放置されたままになっています。もしも私たちが天覧山・多峯主山一帯の保全を訴えていなかったら、大河原と同様になっていたと想像されます。オオタカはもちろん、ホタルもトンボも姿を消したかも知れません。首都圏50qに位置する飯能市だからこそ、ますます貴重になっていく残された自然を、みすみすドブに捨てるような事がないよう、私たちは今年も活動を続けていきたいと思っています。
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昨年7月に飯能市市長選挙が行われ、沢辺瀞壱氏が新市長となられました。これを機に当会の活動及び飯能市における自然環境の保全について、沢辺市長と懇談致しました。
当会では、一昨年より日本自然保護協会からの助成を受けて、天覧山・多峯主山周辺の市民版環境アセスメントともなる詳しい環境調査を行っている事を伝えました。その中で、自動カメラが捕えたキツネやハクビシン等の写真や、バルーンを使った多峯主山一帯の空中写真を見て項きました。また、埼玉県のレッドデータブックに載る希少種が新たに発見された事も話しました。沢辺市長は、前埼玉県議であったことから、県によって実施された天覧山・多峯主山周辺(飯能県民休養地構想計画地)の環境調査について承知しておられましたが、当会によるさらに深く踏み込んだ調査内容に関心を示されました。天覧山・多峯主山周辺地域の県民休養地としての計画推進はすぐには進まないとの事でしたが、実施の際には遊園地的なものではなく、自然を残す形のものが良いと考えているとの事でした。
また市長は、公約として市民環境会議の設置を掲げていらっしゃいます。
これに対し当会では、これまで行って来た環境調査や休耕田の活用保全、環境講座による学習等を踏まえて提案・実践を考えている事から、市民環境会議の開催に期待するとともに、その一員として協力したい旨を伝えました。
今後当会は、これまでの活動を地道に続けてゆくとともに、市民環境会議に繋がるような自然環境保全に関心のある方々とのネットワークを広げてゆきたいと考えています。
3.天覧山の動物たち 安田 守
「えー?タヌキとかキツネなんて学校のまわりにいるわけ?」
高校生の生物の授業で自動カメラに写った動物たちを紹介すると、必ずそんな声をもらす生徒に出会う。ここは彼らにとって毎日通って来ている土地だが、そこに様々なケモノが生息していることに気付く機会はほとんど無い。
十数年前から飯能市にある私立学校で生物の教員をしているのだが、私も初めは彼らと同じ感覚だったのだと思う。里山の中にあるこの土地にどんな生物がいるのだろうか。それを見てみたい。そんな思いから、山の中に自動カメラなる自動撮影装置を仕掛けながら動物の姿を追ってきた。いままでに写った動物たちの姿から飯能の自然をのぞいてみたい。
現在私が自動カメラを設置しているのは、飯能市街からほんの数キロほど離れた小さな谷ぞいの林道跡だ。近くには車道も通るし人家もある。それでも定点観測していれば飯能の動物相のあらましをかいま見ることができる。
例えば、昨年の7月から今年の9月までの約1年間に自動カメラに写った哺乳類は以下のようになっている(かっこの中は撮影枚数。一回に複数枚写ったものも含む)。
モグラ?(1)、ノウサギ(2)、アカネズミ(19)、アライグマ(1)、キツネ(1)、タヌキ(16)、テン(2)、イタチ(1)、アナグマ(8)、ハクビシン(10)、イノシシ(3)、カモシカ(1)
こうしてみると、飯能は隔絶された山奥の村ではないが、逆に人里に近い里山環境だからこそその多様性を見ることができる。一方で動物相も時代とともに変化している。
お隣の名栗村まで行かないと見られないと思っていたカモシカがフィルムに写っていたときは正直言ってびっくりした。十数年でカモシカが写ったのは2回だけなので、生息しているとは言えないだろうが、それにしてもよくここまで出て来たものだ。
イノシシはここ数年目につくようになっているようだ。イノシシが出没しているかどうかは、湿地(田んぼ、休耕田や道沿いの水たまりなど)に、鼻先を突っ込んで掘り起こしたり寝ころんだような跡、ひづめのある足跡が目立つのでわかるものだ。私自身は先日山の中で母子のイノシシに初めて出会ったのだが、飯能在住の同僚に聞いた話では、住宅地の中にある公園の砂場で夜な夜なイノシシが砂浴びをしているのだと言う。
とはいえ、かつてはもっとよく見たという話も聞く。同じく地元出身の同僚からは、彼が幼い頃、小学校のグランドにイノシシが出てきたという話を聞いた。
タヌキは里山の代表のようなケモノだ。通勤途中に車にひかれた死体をごらんになった方も多いのではないだろうか。飯能のタヌキは10年ほど前から明らかに減少した。これは当時流行しはじめたタヌキの皮膚病のためと考えられるが、それも一段落し、ここのところ少し復活してきたような印象を持っている。
かわって目立つようになってきたのが、ハクビシン。車にひかれて持ち込まれる死体(私が標本として集めているのを知って、同僚や生徒がよく拾ってきてくれる)の種類も、かつて多かったタヌキからこのハクビシンに変わってきている。
知人から数年前、青梅で野生化したアライグマが出没していると聞かされていたのだが、今年の春、アライグマは私の自動カメラの前にはじめてその姿を見せた。今後この北米産の帰化動物であるアライグマがどうなっていくのか気になっている。
これら動物相の移り変わりは、おそらくそこに暮らす人間の活動の影響をも反映しているのだろう。里山という自然環境に私たちがどんな関わりをしていくのかが問われているように思うのだ。
安田 守(自由の森学園中・高校教師)
4.1年間の自然環境調査を終えて
約一年間にわたり実施してきた、天覧山・多峯主山周辺域での自然環境調査も無事終え、昨年末には報告書も完成することが出来た。
天覧山・多峯主山の美しく素晴らしい自然を、開発の影響を最小限に抑え保全していくためには『守ろう』とする自然がいったいどういう自然で、客観的にどう評価されるのかといった、自然についての情報を市民が手にすることも必要なのではないか?
そんな思いから始めた今回の調査であった。
この一年間の調査の結果、周囲を宅地開発や道路・鉄道などで囲まれ、まるで『緑の孤島』のようになってしまったこの山一帯が、数多くの野生動植物にとって、とても大切な生息・生育の場であることが明らかになった。調査結果の詳細は調査報告書に譲るが、生態系の基礎となる植物の全出現種数は、実に121科723種類にも及んだ。また、動植物ともに数多くの希少種が確認され、周囲を住宅地などで取り囲まれた里山としては、この生物多様性の高さは特筆すべきもの
があるといえる。とりわけ大規模な団地開発計画が予定されている地域は、天覧入りという谷の集水域である。その下流域には湿地という全国的にも数少なくなっている環境に依存する多くの貴重な植物が生育している他、ホタルをはじめとする、水辺に生息する生き物が多数確認されている。
このような場所における団地開発・道路建設などの開発行為は、この地域が既に自然の連続性において他の地域と分断されている今、とり返しのつかないダメージを生態系に与えることとなる。必要性が問題視されているこれらの開発行為によって自然を破壊する方向と、多様性の高い貴重な動植物相を地域の自然遺産として次世代に受け継がせる方向と、どちらが賢明な方策か考えるまでもないであろう。
今後、調査によって明らかになった天覧山・多峯主山の自然の現状を、一人でも多くの市民、関係者の方々にお伝えし、天覧山・多峯主山周辺の将来について共に考え、保全に取り組んでいきたい。
最後に、調査ならびに報告書の作成に当たり、各分野の先生方、守る会会員の皆様のご理解と多大なご協力を得られたこと、また、日本自然保護協会のプロ・ナトゥーラファンド活動助成を受けられたことに、この場を借りて厚くお礼申し上げます。
5.編集室から
北インドとネパールの釈尊誕生地ルンビニより、ブッダガヤ、サルナート、ラジギール、バイシャリ、そして涅槃の地クシナガラまで巡り訪ねた。
この仏教と稲作発祥の大地には、今も人と動物と草と樹々が一体の大いなる生命として、実りの秋の、黄金色の稲穂の内で生きていた。見渡す限りつづく水田の大平原にガンジス河は流れ、並木道はどこまでもつづき、農村の小さな草葺の小舎で、人は牛と犬と鶏と共に、サリーの女の人は美しく、腰衣の男は逞しく、半裸の子ども達は元気に群れて、暮らしていた。秋とはいえ熱い太陽の下で、菩提樹の木陰には涼しい風も流れて気持ち良く、チャイが甘かった。
そしてやっと私も、仏様が自ら常在霊鷲山と説かれた法華経の御山で、その説法壇、庵跡に触れ、その面影を偲ぶことができた。
天竺の 仏と稲に 養われ
早瀬
成憲
6.日よう日ふるさと散歩
◆2月17日(日) 陽だまりに咲く花を訪ねての巻 集合:能仁寺山門前 AM9:30 持ち物:お弁当、飲み物
◆3月10日(日) 春の息吹を感じようの巻 集合:能仁寺山門前 AM9:30 持ち物:お弁当、飲み物
◆4月14日(日) 里山のお花見・セリご飯のの巻 集合:能仁寺山門前 AM9:30 持ち物:食器、お箸、飲み物